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君を見上げて

も何もしていない

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も何もしていない


「おっと、ちょっと話が逸れちゃったな」
 そう言うと店長はまた水を一口飲むと、煙草を吸い始めた。俺は時計を見た。時刻はもう4時半を回っていた。
「で、その鮮明な、はっきりくっきり映っている映像を私と小暮さんとでじっくり見たわけです。もちろんレジ周りのね」
 店長の話に俺はその類のカメラがレジ周りだけでなく他の場所にもあるのだと思った。いったい他に何台のカメラが俺の知らない場所に隠されて取り付けられているのだろう。
「詳しい時刻は忘れたけど almo nature 好唔好あのPOSレジが音を出したのが午前3時過ぎで、その直前にあのPOSレジで精算されたのが午前2時10分頃。その時のお客は中年の男性。たぶんタクシーの運転手さんじゃないかな。500mlの缶ビール一本とジューシー鶏唐揚げ弁当にポテトサラダ……、それと歯磨き粉と歯ブラシで、お買い上げ額は消費税込みで1522円。お客は札入れらしきものから5000円札一枚、小銭入れから22円を出した。それを受け取った店員、つまり浜本さんだね、あなたは一旦それをレジの受け皿においてからお客に千円札3枚と500円硬貨一枚、つまり3500円のお釣りを手渡したの。お客は千円札三枚を札入れに入れて500円硬貨はやっぱりきちんと小銭入れに入れたの」
 俺は店長の話をしっかりと聞いてい
「あっ、レシート、レシートはね、お客は一旦受け取ったんだけど、すぐに浜本さんに返したの。で、浜本さんはそれをゴミ箱に入れて、それでお客に向かって一礼して、それで受け皿に置いていたお札と小銭をきちんとドロワーに入れたんです」
 覚えている。もちろんそんな事細かな所作などは覚えていないが、その接客は確かに記憶にある。確か1時過ぎに客が来てから、その後ぱったりと客足が途絶え、やっと客が来たと思って接客したのだ。
「つまり、その時刻にはあのPOSレジはまともに動いていたわけ寰宇家庭。もちろんドロワーに水が入っていたなんてこともなかったんです」
「はい」
「それから浜本さんはレジから離れました。きちんとレジにロックもかけてました。だからそのロックを解かない限り、あのPOSレジの操作は基本的にはできないですよね」
「そうですよね。どのボタンを押そうがレジは反応しませんよね」
「そうです、そうなんです。そしてそれからずっと見続けましたが、あのPOSレジには誰一人映っていません。次に映像に現れたのは浜本さん、あなたですけど、それはあのPOSレジが異常を検知して音を出した時です California Fitness 呃人。時刻はさっきも言ったとおり午前3時過ぎ。あなたはその音を止めようとして色々なことをしてましたね。いやもちろんそれは指示されていたとおりのことをしていたのであって、変なことをしていたわけではありません。きちんとした対処だったということは映像が証明していました。それからあなたは携帯を取り出して誰かに電話をしましたね。最初はいったい誰に電話をしているだろうって思いましたが、しばらく映像を見続けていたらすぐにわかりましたよ、ええ、もう本当に私にはピンときましたよ」
 店長はずっと俺の顔を見ながらしゃべり続けていた。そして俺は俺でその店長の顔を眺めながら話を聞いていた。
「浜本さん、店に電話したんでしょ。居眠りしている私に気を使ったんじゃない? 日頃自分がきついことを言っている、その相手に自分の醜態を見られたらバツが悪かろうと思って、それで先に店に電話して私を起こしたんじゃないの? ちがう?」
 俺はその問い掛けに頷いた。だが気を使ったわけじゃない。単に後々それで気まずい仲が更に気まずくなったり、面倒なことになったりするのが嫌だっただけだ。でもさすがにそれは言えないと思った。店長がそう思っているのならそれでいい。どちらにしろ俺がそういうことをしたのだという事実には変わりない。
「悪かったね、変に気を使わせちゃって。ほんと、店長失格じゃんって思うよ自分でも」
「いえ、仕方ないですよ。店長だって日頃からかなり重労働しているじゃないですか。あまり褒められたものではないことは確かですけど、人間、どうしても我慢できない時ってあると思うんです。それが眠気とかの自然現象だと本当に辛いじゃないですか。だから、本当は許されるものではないんでしょうけど、弊害が出ない限り、あれはあれで目を瞑ってもいいんじゃないかって思います」
「ありがとう、本当に気を使わせていたみたいだね。申し訳ない、このとおりだ」
 そう言ってまた店長が頭を下げた。今日店長は俺に何回頭を下げただろう。
「まあもう小暮さんには自己申告もしたから、これからは頑張って耐えるけどさ、今度居眠りしていたら遠慮なくたたき起こしてよね」
「わかりました」
「で、その後映っているのは私と浜本さんで、レジにああでもないこうでもないって感じで色々いじり倒している様子だけ。そう、ドロワーが開いて中から水が溢れ出てきたところもしっかり映っていた。それを見た時の小暮さんの顔ったら凄かったっていうか面白かったよ。何て言えばいいかな、そう、あれがきっと『狐につままれた』って時の顔なんだろうなって思えたよ。口を開けてさ、ぽかーんとした顔してるの。で、映像の中の私も同じような顔してるの。不謹慎だけどさ、笑っちゃいそうになったよ。それでどこかに狐でも映っちゃいないかってマジで探しましたよ、いやもちろん狐どころか猫一匹映っていなかったけどね」
 それを聞いて俺はあの老人のことを思い出した。今朝がたやってきて新聞を買う際に湿った千円札を出した、常連客の一人であるあの老人をだ。
「何度も見直したんだけど、やっぱりいきなりドロワーから水が溢れ出てきたところは理解し難い映像だったよ。誰も何もしていないことがはっきりわかった上でそういうことが起こっているんだもの、気味が悪いったらありゃしない。小暮さんは真剣に『お祓いをした方がいいかもしれん』なんてことを言い出すしね」
「私にとってもあれは不思議な光景でした。今思い出してみてもそう思います。やっぱり超常現象か何かなんでしょうか」
「いやいや浜本さんまで……。やめようよ、そういう考え方は……、とりあえず今はさ」
 そう言われて確かにそうだなと思った。そういう話は最後の最後、もう何をもってしてでも理由づけできないという状態になった時に誰かに決めてもらえばいい。敢えて今ここにいる店長や俺がしなくてもいいだろう。そして俺は先ほど思い出したあの老人が言っていたことが再び気になった。
「で、店長、金はどうだったんです? ドロワーの中にきちんと残っていたんですか?」

<何や知らんけど、今朝見たら財布が濡れとってな、入っとった金も全部濡れとったんや。しかも気のせいかわからんけど金が減っとってな、いったいどういうこっちゃねんって思うたわ。おかしなことがあるもんやで、ほんまに>

 あの時あの老人が言った言葉を俺は思い出していたのだ。
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